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症例集

症例集その5

症例

パグ、未去勢雄、9歳5カ月齢

主訴

昨日より元気、食欲消失

身体検査所見

体重8.0Kg(BCS:2) 体温39.2

血液検査所見

CBCでは、中等度の再生性貧血、血小板減少症、左移動を伴った好中球増加症が認められた。また、重度の血管内溶血(血色素血症)が認められた(図1)。
血液塗抹標本の観察では、破砕赤血球が散見され、また血小板数は減少しているものの大型の血小板が多く認められた(図2)。
血液化学検査では、異常は認められなかった(表1)。

表1 初診時血液検査所見
CBC 血液化学検査
RBC 353 ×104/ul WBC 39,200 /ul TP 6.7 g/dl BUN 29 mg/dl
PCV 25 %   Band 2,548 /ul Alb 3.1 g/dl Cre 1.6 mg/dl
Hb 7.8 g/dl   Seg 31,752 /ul Glb 3.6 g/dl IP 6.1 mg/dl
MCV 65.4 fl   Lym 392 /ul ALT 35 IU/l Ca 10.2 mg/dl
MCHC 33.8 pg   Mon 4,508 /ul ALP 70 IU/l Na 140 mEq/l
Ret < 1 %   Eos 0 /ul Glu 91 mg/dl K 4.3 mEq/l
Plat 10.4 ×104/ul TBil 0.4 mg/dl Cl 107 mEq/l

血液検査所見の解釈

貧血の原因は血色素血症と再生性貧血から溶血性貧血であるということは容易に分かる。溶血性貧血の鑑別リストとしては、免疫介在性溶血性貧血(IMHA)、アベシア症、ハインツ小体性溶血性貧血(ネギ中毒)、細血管障害性溶血性貧血(MAHA)、有棘赤血球性溶血性貧血などが挙げられる。これらの疾患の鑑別は赤血球の形態観察で容易に行うことができる。免疫介在性溶血性貧血では球状赤血球、ハインツ小体性溶血性貧血ではハインツ小体やエキセントロサイトが、アベシア症ではバベシアの寄生体が、細血管障害性溶血性貧血では破砕赤血球が必ず認められる。したがって本症では破砕赤血球が散見されたことより貧血の原因は、細血管障害性溶血性貧血と判断した。細血管障害性溶血性貧血では、原因となる基礎疾患を探査しなければならないため、凝固系検査と画像診断が必須となる。

凝固系検査所見

APTT 13.9 sec PT 14.5 sec FDP 11.9ug/dl AT 66%
以上の所見よりPre DICと判断した。

超音波検査所見

腫大した脾臓に、不均一で低エコー源性の腫瘤病変が複数認められた。
またごく少量の腹水貯留も認められた(図3)。

これらの結果から、MAHAの原因は脾臓腫瘤と判断し、脾臓摘出手術を計画した。全血輸血後CT撮影と開腹手術による脾臓摘出手術を行った。

造影CT検査所見

脾臓には脾尾部、脾体部に造影効果に乏しい低吸収域を示す腫瘤病変を認めた。リンパ節の腫大や肝臓に腫瘤病変は認められなかった(図4)。

手術所見

脾臓腫瘤は、少量の出血を伴い周囲に血餅が付着していたが、他臓器への癒着は認められず容易に摘出可能であった(図5)。

病理組織検査所見

腫瘤内には大型明瞭な胚中心を持つ大型のリンパ濾胞が複数存在し、濾胞間に好中球をやや多く含む赤脾髄成分が見られた。強い出血壊死が認められる部位も存在していたが、いずれも腫瘍性変化は認められず、結節性過形成と診断された。

経過

摘脾後すぐに血管内溶血は消失し、PCV値、血小板数共に急激に増加した。

解説

溶血性貧血と血小板減少症が併発する疾患としては、免疫介在性溶血性貧血(IMHA)と免疫介在性血小板減少症(IMTP)の併発、IMHAと血栓症やDICが併発している場合、バベシア症、そして細血管障害性溶血性貧血(MAHA)の4つの病態が主に考えられる(表2)。これらの貧血は先にも述べたように赤血球の形態により鑑別が可能であり、本症例は破砕赤血球が存在し、他の形態的特徴を有していなかったことよりMAHAと診断した。
MAHAの原因として凝固検査結果からPreDIC(血小板数とATの低下、FDP上昇の3項目)と判断したが、脾摘後直ちに血色素血症は消失し、血球減少症が改善されたことは、細血管病変がDICなど全身性の血栓形成によるものではなく、脾臓に限局した細血管病変と考えられた。

表2 溶血性貧血と血小板減少症の併発
病態血液塗抹像の特徴
IMHA+IMTP球状赤血球(+++)
IMHA+血栓症球状赤血球(+++)+破砕赤血球(+)
バベシア赤血球内寄生虫体
MAHA球状赤血球(+)+破砕赤血球(+)